第1章

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そのことに全く気づかない俺は、日向の思惑通りに告白し、相手の術中に入り込んだ。もうその頃には、日向は弱味をしっかりと握っていた。バレないように別れないように、警察に連絡することも、友人や友達に相談できないように、大勢の人間の個人情報、それも外部に連絡したらマズい情報ばかりを集めていた。 相談すれば、交際をやめれば、警察に通報すれば、俺を含めた大勢の人間の人生は大きくねじ曲がってしまう。清濁、合わせ持てない奴は死ぬだけだ。 日向は、そのことをよく知っていた。誰しも他人には知られたくない秘密があることを、それを上手に組み合わせることで相手を束縛しておけることも、どれか一つでも地雷を踏めば、俺の人生は終わりだ。連鎖的に地雷が爆発し、その恨みは俺に向く。仮にやけになって日向を殺しても、その罪は俺への罰になって跳ね返ってくる。 一度でも入り込むと抜け出せなくなってしまう、あとは蛇に絡まれながら絞め殺されるのを待つだけ、 「けれど、貴方は抵抗した。そうでしょう?」 ああ、俺は日向を暴行したんだ。男だから、あいつを逆に暴力で支配してやろうって気持ちになった。いくら個人情報を持っていても、それを外部に流出しなければ意味はない。 殺される前に、殺すつもりだったけれど、日向は違った。そうなることも想定していた。自分がいつか暴力されることを予期していた。 日向は、それを利用した。自分の身体を傷つけ、跡を残し、俺が暴力を振るう映像を隠し撮りすることでさらに束縛を強めた。もう、友人や警察には相談できない。だってそうだろ。彼氏が暴行と彼女のちょっと度の過ぎた愛情表現を天秤にかければ、悪いのは間違いなく俺になってしまう。 この国は暴行を行う奴には、ものすごく厳しい。女性の尊厳を守る紳士国家だかはこそ拭えない闇だけれど、冤罪にはならない。俺は日向を暴行したことには、何ら変わりはないんだから、謝っても許されない罪、犯した行為、消えない傷を背負わせたからには罰を受けなくちゃいけなくなる。 あとは日向の手加減だけだ。ほんの気まぐれで、俺は犯罪者になってしまう。その代償として、 「小指を切断された」 「ああ、俺が酒で寝込んでる隙にな、機械でスパッとな、早業ってやつか、痛みなんてこれっぽっちも感じなかった。ただ、そのせいで俺はいろんな物を失ったけどな」 友達も友人も家族も、この傷のせいで疎遠になった。
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