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溢れ出すことも、どこか遠い感覚だ。切り落とした左腕がひとりでに蜥蜴の尻尾のように這い回り、日向の悲鳴が響く。消えていく、日向が、日向という呪いがひとりでに身悶えして消えていく。
「なるほど」
「何がなるほどなんだよ」
「いえ、日向という女は最初から存在してなかったんだなぁと思って」
斬られた左肩を抑えた、ズキズキと痛む。左腕を失ったのに喪失より、爽快が強いのは、なぜだ。
「見て」
日向の消えてなくなった場所、そこには日向の死亡事故を掲載した記事があった。いや、それだけじゃない、写真、旅行の思い出、土産物、持ち物、そして、一匹の蛇の剥製。
「死んで、それで呪いになったのか?」
一匹の蛇に、全てを飲み込む大きな蛇になったのか?
「おそらく、この呪いの根元は貴方の未練、日向という女はいたけれど、貴方は死んだことを認められなかった」
「意味、わかんねーな」
「ようするに彼女が貴方を愛してたよつに、貴方も彼女のことを深く愛してた。小指を自ら切り落としてしまうくらい」
「全部、妄想だったのかよ」
「妄想でも、突き詰めれば呪いなる。自分を蝕む毒になる。死んでしまうくらい」
自分を殺すくらいと、少女は言う。正直に言おう、わけわからん。
「それと救急車を呼ぶべき、出血多量で死ぬ」
「いきなりリアルなこと言うな!!」
「電話はしてやる。とにかく騒ぐな。左腕を失ってるんだからね」
「優しく言ってるけど、これってけっこうヤバいよな」
なんせ、左腕、一本、無くしているからな。あらためて俺の決断に寒気を覚えた。
妄想で、空想で、幻想だった。俺は、俺が信じられないけれど、左腕を一本、無くしたからか、いろんなものが吹っ切れてしまった。
「俺、死ぬのかな?」
「さぁ、死にたくないのなら祈るべき」
少女の言葉が遠くなる。遠くて、意識が闇に沈む。
バシャバシャと水溜まりを蹴って、走った。俺は、俺は携帯電話から知らされた悪い知らせを何度も否定した。
「日向、なんで、どうして…………」
交通事故、重体、死ぬかもしれない。どうして、今日は一緒にいてやれなかった? どうして、今日だけ別行動していた?できるわけないことを、頭の中で繰り返しながら俺は病院に走った。
「……………っ!?」
包帯でグルグル巻きにされた日向がいた。身体中をわけ、わかんねー機械が日向を取り囲んでいた。
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