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カメラマンと助手の二人が撮影機材を用意し、ライトスタンドやディフューザーを立てている様子を見て、政はイライラとしながら言った。
「まだ、あのバカ娘は来んのか!」
腕時計を見やる慎一郎は言う。
「約束の時間には、あと少しありますから。じきに来るでしょう」
「あれは、いつも時間ぎりぎりにならないと来ん! まったく、誰に似たんだか!」
「あなたに、でしょう?」
加奈江はさらりと言った。
「締め切りは守らず、遅刻も多くて。列車や飛行機に乗り遅れたのも一度二度ではないじゃありませんか」
「えーい、やかましい!」
返す声の向こうでは、赤ん坊がだあだあ。一馬くーん、おじいちゃんですよーとあやす声は、慎一郎の舅、悟のものだ。
この日、尾上家と水流添家がそろって尾上の本宅で家族写真を撮ることになっていた。
きっかけは、慎一郎と秋良が結婚した時、悟から一枚の写真が渡されたことにさかのぼる。
「慎一郎君のお母さんが秋良と会ったことがある、っていうから。写真をひっくり返してみたら出て来たんだよ」
結婚して間もない頃の加奈江に、まだ若い道代、そして幼い秋良の後に、慎と茉莉花が写っていた。
当事者の三人の内、秋良が覚えていないのも道理だが、姉妹はそろって「おや、まあ」と目を丸くした。撮した僕も忘れてたよ、と悟は、あははと笑った。
「ネガが辛うじて残っていたから、いくらでも焼き増しもトリミングもできるよ」
二の句が継げない慎一郎はしばらく印画紙上に並ぶ人達を、両親を見た。
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