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自分を撮した写真は、それこそ定点カメラが写すそれのようにくさる程あるのに、ふたりの写真はあきれる程残っていない。
「おそらく、両親が並んだ写真は、これしかないでしょう」
死ぬ少し前の母と、今の自分より少し年を重ねた父。
並び立つ姿の、何と収まりの良いことか。
ふたりは良い年月を過ごして来れたのだと改めて思った。
「じゃ、おふたりのところを大きくトリミングして飾るかい?」
そう言う父親に、頬を膨らませた秋良は不平を言った。
「私も写っているのに! 切ってしまうの?」と。
指差した先には、夫の両親の足元でにこにこと笑う秋良がいた……。
図らずも縁続きの者ばかりが写ったスナップをきっかけに、毎年は無理でも、数年に一度は皆がそろって写真を撮りましょう、ということになった。
今日はその記念すべき一枚目の撮影日だ。
参加してくれるよう再三説得し、やっと首を縦に振らせた次郎伯父は、慎一郎夫妻の長男の側にいる。伯父に付き添うように一歩離れた場所に立つ女性は先頃結婚したばかりという伯父の妻である綾だった。
父と同い年で生涯独身を貫くかと思えた次郎伯父と、母と同い年で離婚と再婚を繰り返した恋多き女・綾との結婚話は慎一郎を大層驚かせた。ふたりが出会ったきっかけは慎一郎と秋良の披露宴で同じテーブルについたことだったというのだから、人の縁はどこから湧いてでるのか本当にわからない。両親が生きていたら、何と言ったことやら。
向かい側の席では、秋良と道代が親子漫才をしている。
「次のお子様のご予定は?」と言う母親に、
「考えてますけど! やっと職場復帰したところなのよ、今すぐはご勘弁!」と娘は苦い顔。
「ひとりっ子というのもね、あなた若くないんから」
えーい、うるさいうるさい! 秋良は耳を両手でふさいだ。
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