1997年のポートレート

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「しかし何だな、お前が父親か。似合わなくて笑えるな」  政は言う。 「兄さんよりはマシでしょう」  慎一郎は平然と返す。 「立派に育て上げてみせますよ、兄さんですらできたんですから」 「お前、本当にイヤな奴だな!」  口調がまるで違うから区別がつくものの、少し聞いただけではわからないくらいよく似た声で、軽口をたたき合うふたりを見て、加奈江は思う。  味のある兄弟に、なりましたでしょ? お義母様、と。  彼女の視線の先には、花瓶に活けられたマツリカの花が束になって入っていて、芳香を振りまいている。 「しかし、本当に遅いな、バカ娘は」  話題を変えるように政は言った。 「ちゃんと場所と時間は伝えたの?」  とは加奈江。 「ええ、僕の方から。メールの履歴もありますよ」  ほら、と慎一郎は持ち歩いているパワーブックの画面上から、送信済みメールを見せた。  ちょっと機械が使えるからって、と政はふてくされた。彼は電子機器にからきし弱い。 「裕ちゃんも来年卒業? 早いわね」  道代は言った。 「そろそろ、いい人がいるとかいないとか、そんな話はないの?」 「あれが?」  わははと政は一笑した。 「あいつに嫁のもらい手があるわきゃないでしょう」  世の父親は大概そう言う。 「さっさと片付きゃいいが、まあー、ムリムリ。まだ学生だし」 「とか言って、いざその時が来たら、嫁に行くなと泣きつきそうですが」  慎一郎は言う。  そうそう、言えてる。水流添の女たち三人は頷き合う。  一連のやりとりを見て、伯父夫妻は微笑むばかりだ。
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