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「しかし何だな、お前が父親か。似合わなくて笑えるな」
政は言う。
「兄さんよりはマシでしょう」
慎一郎は平然と返す。
「立派に育て上げてみせますよ、兄さんですらできたんですから」
「お前、本当にイヤな奴だな!」
口調がまるで違うから区別がつくものの、少し聞いただけではわからないくらいよく似た声で、軽口をたたき合うふたりを見て、加奈江は思う。
味のある兄弟に、なりましたでしょ? お義母様、と。
彼女の視線の先には、花瓶に活けられたマツリカの花が束になって入っていて、芳香を振りまいている。
「しかし、本当に遅いな、バカ娘は」
話題を変えるように政は言った。
「ちゃんと場所と時間は伝えたの?」
とは加奈江。
「ええ、僕の方から。メールの履歴もありますよ」
ほら、と慎一郎は持ち歩いているパワーブックの画面上から、送信済みメールを見せた。
ちょっと機械が使えるからって、と政はふてくされた。彼は電子機器にからきし弱い。
「裕ちゃんも来年卒業? 早いわね」
道代は言った。
「そろそろ、いい人がいるとかいないとか、そんな話はないの?」
「あれが?」
わははと政は一笑した。
「あいつに嫁のもらい手があるわきゃないでしょう」
世の父親は大概そう言う。
「さっさと片付きゃいいが、まあー、ムリムリ。まだ学生だし」
「とか言って、いざその時が来たら、嫁に行くなと泣きつきそうですが」
慎一郎は言う。
そうそう、言えてる。水流添の女たち三人は頷き合う。
一連のやりとりを見て、伯父夫妻は微笑むばかりだ。
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