1997年のポートレート

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「そんなこと、あるわけない!」  政は譲らない。 「秋良は幼稚園の恋を引きずっていたのよ」と言う母に、 「何よ、その言い方」と娘はおかんむり。「そのとおりだけど」と付け加えるのも忘れずに。 「母が父さんと会ったのは十四か十五の頃だったそうですよ」と弟。 「私があなたに会ったのは中学の頃だったかしら」と妻。 「出会いはいつ来るかわからないということだねえ」悟は孫に「だよねー」と声をかけて続けた。「デートか何かで忘れてるんじゃないの?」  まさかと即答しつつ、政は少し気色ばむ。 「あんなハネ返りに男がいるワケないだろう」 「あら、でも。あなたが妹と結婚した時って、たしか大学生の頃じゃなかった? じゃ、まったく早かないですよ」 「だから、何でいきなり結婚の話になるんだ」 「こればかりは、わからないわよー」  道代はあっさり言う。政をからかい、混ぜ返すのが楽しくて仕方ないらしい。 「お前、教師だろう、どうなんだ!」  兄に振られて、弟は当惑する。 「無茶言わないで下さい、僕の受け持ちではないし、専門が違うでしょうが」 「あら、でも……」  秋良は言いさし、夫に目配せした。あ、とふたりは同時に声を上げ、同時に納得した。 「……いるのか?」  政は言う。 「さあ、僕では何とも」弟は素っ気ない。
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