14人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなこと、あるわけない!」
政は譲らない。
「秋良は幼稚園の恋を引きずっていたのよ」と言う母に、
「何よ、その言い方」と娘はおかんむり。「そのとおりだけど」と付け加えるのも忘れずに。
「母が父さんと会ったのは十四か十五の頃だったそうですよ」と弟。
「私があなたに会ったのは中学の頃だったかしら」と妻。
「出会いはいつ来るかわからないということだねえ」悟は孫に「だよねー」と声をかけて続けた。「デートか何かで忘れてるんじゃないの?」
まさかと即答しつつ、政は少し気色ばむ。
「あんなハネ返りに男がいるワケないだろう」
「あら、でも。あなたが妹と結婚した時って、たしか大学生の頃じゃなかった? じゃ、まったく早かないですよ」
「だから、何でいきなり結婚の話になるんだ」
「こればかりは、わからないわよー」
道代はあっさり言う。政をからかい、混ぜ返すのが楽しくて仕方ないらしい。
「お前、教師だろう、どうなんだ!」
兄に振られて、弟は当惑する。
「無茶言わないで下さい、僕の受け持ちではないし、専門が違うでしょうが」
「あら、でも……」
秋良は言いさし、夫に目配せした。あ、とふたりは同時に声を上げ、同時に納得した。
「……いるのか?」
政は言う。
「さあ、僕では何とも」弟は素っ気ない。
最初のコメントを投稿しよう!