追い風1000km

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◇ ◇ ◇ 一時間と少しのフライトは大きな揺れもなく順調に進んだ。 飛行機は高度を下げ、津軽海峡上空を飛ぶ。 「レジ袋が浮いてるみたいだな」双葉はつぶやく。 波頭が白く波間を覆う様は限りなく黒い海の色と相まって鮮やかな対比を示す。 低く垂れ込めた雨雲の切れ間には海に降り注ぐ雨が境界線を描いていた。 所々雲間を縫って差し込む陽の光とのコントラストは鈍色の濃淡を醸し、時折フラッシュをたいたように光が燦めいた。 「……やばくね? 海、近すぎね?」 知らず膝を抱えていた双葉はそれでも外を凝視する。 「函館上空を旋回すると言ってたからな」 「けど、波があんなに近い……」 エンジン音も常より大きい、時々バウンドするように機体が跳ね、その度、翼は膝を自分に引き寄せた。 雨がシャワーのように窓を打ち、機体がゆるやかに傾いだ時だった、きらりと光が差し、窓の向こう側に虹が燦めく。 虹は鮮やかであればあるほど色は濃く、二重の弧をひらめかせる。 手が届きそうなくらいの近さで弧を描く二重の輪は双葉の目を奪った。 函館山を遠くに臨み、海岸線沿いに並ぶ民家がひとつひとつ手に取るように見える所まで来て、旅客機はゆるやかに着陸した。 抵抗もなく、滑るようにゆるやかでいつ着地したのかもわからない震動だった。 その時、窓ガラスが激しく水を打つ。 「雨??」 頭を廻らせた先に、一瞬見えたものは赤。 誰かが口にした、「消防自動車だ」 機内の乗客達はそれぞれの座席でこぞって窓外を覗いた。
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