追い風1000km

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◇ ◇ ◇ 現在、航空機は到着したその足ですぐ次の目的地へと向かう。 駐機時間は一時間あるかないか。 乗客を降ろした瞬間から次のフライトに向けて乗客を迎え入れる体勢に入る。 乗ってきた便で帰る選択をすると、トンボ帰りの何者でもなく、付近への観光はもちろん空港の外へ一歩踏み出す程度の時間しかない。 送迎デッキは、写真撮影をする航空ファンや、慎一郎親子同様、乗って帰るだけとおぼしき乗客がひしめいていた。 747の隣には、見たこともない絵柄が華やかで彩りが派手な尾翼を持つ航空機が止まっていた、外国籍の機体だった。 空港の建物がある向かい側、海岸線側にもカメラを構えた人たちが鈴なりになっている。 「どうしてなんだろ」 双葉はデッキの前面にへばりつく見学者を後ろから眺めていた。 「みんな、なんで写真撮るのに必死なんだろ。だってさ、写真なら探せばいっくらでもプロが撮ったものがあるじゃん。それ集めるだけで充分なんじゃないの。父ちゃん、何故だかわかる?」 「さあ。彼らの心理は彼らにしかわからないさ」 風に髪を泳がせて、慎一郎は駐機する飛行機を見る。 「人間は――記憶を大切にする生き物だ。カメラは自分の目だ、その目を通した光景を形に残したい、自分が見たままの姿を。そう願うのではないかな」
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