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「父ちゃん」
「何だ」
「ジャンボ、好き?」
「ああ、好きだ」
「何で」
「何でだろうなあ」
視線を正面からそらさず、父親は言った。
「子供の頃だ。航空機のパイロットになるのだと言い続けていた」
「父ちゃんが?」
「ああ。絶対なると信じていた。父親が、かつて操縦士を目指していたと聞いたから、その影響もあったのだろうな」
「父ちゃんの父親って……」
自分にとっては祖父にあたる人だ。父親が学生の頃に鬼籍に入っている。双葉からするととうの昔に死んだ人だ。人となりはもちろん、名前ぐらいしかわからない。
「それ……戦争中の話だよね」
「そうなるな」
「もし、操縦士になってたら、死んでたかも?」
「……多分な」
「そしたら父ちゃんも俺も、ここに立ってないんだね」
「ああ……」
小首を傾げ、慎一郎はつぶやいた、「そうなるな」。
「人生は小さな偶然の積み重ねだ。意図しない選択がまったく違う未来を生むこともある」
「それとジャンボとどういう関係があるの」
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