追い風1000km

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まだ強烈な夢も将来の展望も持てない自分だけど、もし何に替えても惜しくないほど大切なものがあったとしたら、簡単に手放せるのか?  双葉の眼前にひとりの少女の姿が浮かぶ。 小さいころからずっと見てきた、いつも一緒だった。 愛の一文字を名に持つ従妹。 あきらめるなんて、できない。 自分には無理。 だから、双葉は聞いた。「父ちゃん、なんでパイロットにならなかったの」 「なれなかったからだ」 「どうして」 「父が命じたからだ、後を継いで教師になれと。父は白鳳の教授だった、死期を前にした人との約束は絶対だ、反古にはできなかった」 初めて聞く、父と祖父との挿話だ。 双葉は父を見上げる。慎一郎は変わらず視線を前に向けたままだった。 「もちろん、パイロットも大学の教授も誰もが就ける職業ではない。非常に狭き門だ。他のどんな職業であろうが、誰しも願えば夢が叶う保障は一切ない。最近になって気づいたんだよ、父の願いを叶える為に夢を諦めたと言い訳してきた自分にね。その気になればあるいは……と自分を甘やかしていた。本心から望んだ進路なら道は自ずと開けていただろう、手立てはいくらでもあったのだから。けれど何もしなかった。挑戦することもせず、自分の夢から逃げたのだよ」 北国といえど、冷え込む日が続いた東京とさほど変わらない陽気のこの日。見上げた空には、灰色の雲が低く垂れ込めていた。
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