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名残惜しい時はあっという間に去る。
一時間未満の里帰りは終わった。
747は函館空港を後にする。
復路は往路のS機長から引き継ぎ、Y機長が職務についていた。
両名とも、常より長めの蘊蓄と含蓄に富んだ機内放送を行った。その中でY機長は伝える、往路は追い風に乗り時速1000km出ていた速度も、逆方向になると向かい風となり、現在は時速800kmで飛行していると。
その差200km。
慎一郎は思う、自分は、今、復路を飛ぶジャンボジェットのようだと。
日本に就航して30有余年。就航終了は日本国内だけの話で、海外のエアラインではまだまだ現役で世界の空を飛び回っている。
が、決定事項は覆らない。自らが占めていたポジションを次の世代へ明け渡さなければならない。
翻って自分はといえば。
大学在学中も、留学中も、帰国して研究室に席を与えられても、どこか他人事で過ごしていた過去。深く人と交わることをせず、どこか斜に構えて世間を渡っていたつもりだったが、背中に吹き下ろす風に逆らわず飛び続けていただけだった。
今は家庭を持ち、家族も増えた。人の輪も拡がった。仕事も端から見ると順調で、それなりの地位に就き責務を果たす日々だ。
けれどいつかはブレーキがかかる日がくる。
折り返し地点を過ぎると、それまで追い風だった風向きは一転逆風になる。
恩師が、上司が、先達が一線から退いたように今度は自分の番が回ってくる、向かい風が速度を落とし、燃料が切れたら惰性で滑空するか、風が途切れたら失速して墜落する。表舞台から消えてなくなる。
それだけの話なのだ――
機内アナウンスが秋田県上空を通過したと告げた。
相変わらず雲は眼下を埋め尽くし、地上はまったく見えない。
正午を過ぎた空は色濃く蒼く、雲の白とのコントラストを際立たせる。
往路とまったく同じチャネルに合わせていた機内プログラムは、往路で聞いた曲と同じハイフェッツのシャコンヌが流れていた。
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