追い風1000km

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撮影の順番待ちのわずかな間、双葉は、わらわらと機首に向かい、思い思いに撮影をする人の群れを尻目に、ついさっきまで乗ってきた飛行機をきっと見上げる。 「父さん」 父の応えを待つことなく、双葉は続けた。 「俺、パイロットになる。なって、あの席に座る」 まっすく指差した先は向かって右側の左舷。機長席だった。 「もう、これは飛ばない、もしお前がパイロットになれたとしてもその頃には……」 「退役してるって言うんだろ、わかってる、そんなことくらい。でも、先のことはわからない。俺、知ってるんだ、747の最新型がもう運行してるって。今から5年、10年先のことなんて誰も予測つかない。もしかしたら東京オリンピックの頃には、新鋭機で復活してるかもしれないじゃないか? その時、飛ばすのは俺だ。そして――」 双葉は言葉を切る。夢と憧れと愛しい少女を手に入れるのだ、と心の中で宣言して。 慎一郎は瞠目する、若者は、なんと容易く夢を見つけ、未来を設計し、動機を裏付けにして明日を語るのかと。 かつての自分もそうだった、何が自分を変えた、足枷を作った? なかったのだ、最初から枷など。 しなやかに若木が伸びるようにはいかない、自分はもう若くない。 けれど……終わりたくないのだ。 まだまだできる、まだがんばれる。 がむしゃらにしがみついてみても、物わかり悪くなっても、醜態をさらしても……いいのではないか? 子供の頃に立てた夢を諦めたようなことは、もうすまい。 一陣の風が髪をなぶり、航空機の轟音が交差する中を親子はそれぞれの思いを胸に機体を見上げた。その時、歓声が上がり、前後左右の乗客達が一斉に手を振った。 機長席付近から、振り返す掌がひらひらとひらめいていた。
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