追い風1000km

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そして秋良はかつては国際線に乗務していた。職場はもちろん747。担当はアッパークラスだった。結婚・出産を経て職場復帰後もしばらくは747が定位置だったが、世紀が変わったころから国内線はより燃費が良い双発の中型機に移行した。エンジン数が4発と多い747は規制の対象になり、離発着できない空港も増え、一世を風靡したジャンボジェットはあっという間になくなっていった。彼女の会社では2011年に、業績不振に加えて経費削減の為、前倒しで就航を終了している。 現役機の退役が決定すると、かつてのOBやOGが懐かしがって搭乗することは珍しくない。 いよいよ就航も残りわずか、これが最後と決まった時、千歳空港への往復便に慎一郎夫婦は一般乗客に混じって搭乗した。その日は彼女にとってかつての職場へのお別れを告げる日だった。が、先輩にあたる同僚夫妻のおでましだ、乗務員たちとどうしてもアイコンタクトを取ってしまう。また、他にも元同僚やご同類がごろごろいた。復路千歳から羽田に着いた後は、わらわらと顔見知りが集まり、急ごしらえの同窓会へと雪崩れ込んだ。秋良はこっそりしんみりとしたかったのだが、そういうわけには……いかなかった。 「とうとう日本の航空会社から747が消えるのだね。ラストフライトも間近だな」という父へ「俺、乗ったことない! 函館、行きたい!」と即答したのが双葉だった。 「そうだな、都合つけて皆で行くか」の父親の呼びかけに対して他の家族はといえば。 「私はいいわ」と秋良は言った。「その日は仕事が入っていたのじゃないかしら」 「僕もいいや」長男一馬も母に続く。「予備校あるし、模試も近いし、検定の勉強もしたいし」 「僕もやめとく」とは末っ子三男の三先だ。「父さんと双葉で行ってくればあ?」 「そうね、おふたりでどうぞ」秋良も後押しする。 「何だかんだいったって、父さんと双葉は仲良いよな、どこ行くにもふたりで出かけること多くね?」一馬はさらっと言ってくれた。
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