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飛び込んだログハウスには、六人の先客がいました。
私が嘘の自己紹介(なんて言ったかはご想像にお任せします。)のついでに殺人鬼がこの山に逃げたと話すと、全員が不安そうな表情になる。
「へぇ、殺人鬼ですか。怖いですね。」
向かいの椅子に座り、怖いとか言ってるが全然怖がっているように見えないロシア人坊ちゃんのエヴァン。
「しかし、この家に住んでいるはずの濱玉の老人が不在だからといって、勝手に上がるのはどうかと………」
窓際に立って、おどおどと神経質なのか親指の爪を噛んでいるのが、サラリーマンの中谷という中年男だった。
「緊急避難ってやつよ。嫌ならアンタが出ていけばいいわ。」
「そうだよ、不可抗力だ。」
ソファーに寄り添って座る若い男女が、出村と山中という登山客だ。
棚から勝手に日本酒を取り出し、ガラスのコップで飲んでいる。
アルコールが少し回っているのか二人とも顔が赤くなっている。
「山の天気は変わりやすいと言うが、地球温暖化のせいなのか、この季節、こんな急な変化は珍しいのぉ。」
椅子に座って呑気に乾パンを食べているのが、この山の麓の村にいる佐々木という出店をやっているお婆さんだ。
「マジ災厄、今夜のアニメみれないでふwww」
部屋の隅でorzな姿勢をしているのがオタク……田中だ。
エヴァンはお忍びで日本に旅行しに来て、たまたま山を登っていたら雨に降られ、このログハウスに避難してきた。
中谷は仕事で山越えをしていた。
たいでにこの家の持ち主で、親戚である濱玉に会いに寄ったと述べた。
中谷は、なんとも陰気で暗い中年男だ。
佐々木は、村から山を越えて来た唯一の川をまたぐ橋が背後で流されどうにもならなくなったと言う。
なんか和むお婆さんです。
田中は夢とロマンを探して来たら遭難し、「森のマダオ」という自作の歌を唄いさ迷っていたらログハウスを見つけたそうだ。
出村と山中は、大学生で登山部としてこの山に来たのだが、帰り道が土砂崩れで塞がっていたため引き返してきたと言った。
全員が、それぞれの理由でこのログハウスに留まることにした。
暖炉の前で服を乾かしつつ、私は六人の自己紹介と顔を一致させる。
ザァァァァァァァァァァァァァ──────
窓から漏れる雨音は、さらに強さを増したようです。
「急な豪雨に殺人鬼。唯一山道が行き止まりになっている…………これってどこの探偵物www?」
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