Prolog

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ボロい店の奥に、地下への出入口があった。 本棚を横にスライドすると開く秘密基地みたいな出入口だ。 そこを開けて螺旋階段を下りていくと、ボクシングかプロレスのジムにそっくりの内装の地下室に出た。 さすがにロープは張られていないが、格闘技用に使われる衝撃吸収マットが、敷き詰められている。 まだ改装が終わってそれほど経っていないのかマットやミット、サンドバッグなど何もかもが真新しく見える。 ノブ子に行くように言われ(脅され)、疑問に思いながら来てみたが、部屋の中央にいる男を見て理解した。 その人物は上半身裸にジャージのズボンという姿で、サンドバッグに的確な左右の拳ラッシュを叩き込んでいる。 右のストレートによる掌低打、そして鋭い切れの入ったダブルパンチ。 男の筋肉質な体が左右に躍動するたびに、サンドバッグが激しく揺れる。 いやぁ、マジで痛そうだな。 殴られているアレが人間なら、今頃は相当無残な死体(ミンチ)になっているだろう。 「久しぶりに見たわ、仁師匠。」 と俺は呟いた。 ジン。 名字は宮本(ミヤモト)。 宮本 仁。 超古株の殺し屋で、今はどこにも所属していないフリーの殺し屋なはず。 仁の年齢は50代後半。 身長は178cm。 白が混じった黒髪。 基本的にニコニコ微笑んでいるが、いつも微笑んでいて何を考えているのか判らない。 狐のような糸目で、瞳が見えないが、俺は糸目で隠されている瞳に凄まじい殺意が潜んでいることを知っている。 「こんにちは進。」 「よぉ、仁師匠。」 「君は相変わらず年上を敬わないね。あと、師匠と呼ぶのは前からやめてほしいと言ったはずですよね。」 仁は微笑むが、俺の背中はなぜか寒い。 俺と会話を交わしつつも、リズミカルにサンドバッグを殴り、蹴り続ける。 「進。君は、最近頑張っているようだね。」 「ん~そこそこだな。別に頑張っているつもりなんてねぇよ。」 「そうですか。」 「ところで、仁師匠の仕事はどうなんだ?」 「順調ですね。ターゲットの拠点を見つけ出しました。これから私自身が向かい、潰します。」 「おふ、簡単に潰すって……」 怪物師匠め。 「最近ぬるい仕事が多くて、体が鈍った感じがしますね。」 「それで、ここでトレーニングか。」 ここで、仁はピタリと動きを止めた。 「ちょっと相手してください、進。」 うわぁ、イヤな予感しかしねぇ。
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