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「仁師匠?」
「格闘戦の技術がどれくらい成長しているのか、見てあげましょう。スパーリングです。」
仁がニコニコ微笑むが何か怖い。
「は、はひぃ。」
俺は革ジャンを脱ぎ、リングの横にある机の上にあったフィンガーグローブを取り装着した。
どうやらこの地下室は土足禁止ではないみたいだから、靴は脱がずにそのまま仁に近づいていく。
短い間合いで向き合い、俺は手首と首の骨を軽く鳴らした。
「どうしたんですか?膝が震えてますよ。」
「いやだなぁ、これは武者震いっすよ。」
やべぇ、クソ怖いわ。
「そうですか。」
ほとんどなんの前触れもなく、仁は左の回し蹴りを放った。
しっかりとした重心から、コンパクトに打ち出す鋭い蹴りだ。
「うひゃぁ。」
俺は小さな呻き声をあげながらも体を半転して下がりギリギリでかわす。
練習試合とはいえ手加減もないのかこの人は!
仁は、数多くの格闘技を身につけそれを自分でアレンジして作り出した技を使う。
俺はそんな仁の技を必死で盗もうとしたんだが、無理でした(笑)
いやね、アレンジって何よ?ふざけてるのまじで(怒)
何とか元の格闘技をネットで探して必死に覚えましたから。
かわした俺は回転を利用して全身の筋肉をフル活用した左ストレートを放った。
仁は、その拳をデコピンで止める。
「はあ?」
デコピンと拳がぶつかって打ち負けたのはなんと俺の方だった。
どんな馬鹿力してんだよこの化け物め!?
「チッ!」
俺は内心驚きながらも、舌打ちをする。
無茶苦茶な師匠だぜまったく。
俺は身を退くと同時に右の鉤突きを仁の顔面へと放つ。
軽々と受け止める右掌の向こうに、ニコニコと仁の微笑み。
しかし、この俺の拳打は俺の偽装。
仁の死角から左上段蹴りを、仁の首筋に叩き込む、と見せかけて軌道変化。
垂直落下する爪先が狐顔糸目のブラックスマイルを急襲。
だが、あげられた仁の左手が、渾身の奇襲を止める。
「二段変化の良い蹴りですね。たしか………ノブ子の技でしたか。」
確かに自分でも感心するほどの良い蹴りだった。
仁ではなかったら絶対に入っていたはずだ。
俺に教えたのは仁の言うとおりノブ子だった。
『ご褒美は熱いチッス(キス)でどうかしら?』
懐かしさ、いや悪寒が俺の体を震わした。
「いい技なのですが、さすがに非力すぎますね。二段変化の速度が遅いです。」
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