第1章

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 止まる直前にも大きく揺れチャイムが鳴った。扉が開く前に「出てすぐの部屋やけん」と言われた。  エレベーターをおりると、天井に埋め込まれた小さなライトが、薄暗い廊下を照らしていた。  ワイン色の扉の金色をした805の文字を見て息をのんだ。  鍵を回す背中を見ているうちに、座り込みたいほど、苦しくなった。  たまらなくてブラウスの中心を強く握ると、かすかに手が震えていた。  部屋は真っ暗だった。  コクラがスイッチを押すと、部屋の奥のほうでオレンジ色の丸いライトが、ついた。足下を照らすやわらかなライトもついていたけれど、それでもまだ暗めの部屋だった。
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