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「なぜ発行されなかったのか? 答えは簡単ぢゃ。社会に与える影響を怖れてファーブル自身が封印したんぢゃ」
老人は言った。それはいつものやり取りであった。
「幻の十一巻に載っておる昆虫は虫にあって虫に非ず。〝蝕(ムシバミ)〟とファーブル自身は呼んでおった。〝蝕〟はどれも人に害をなすものばかりぢゃ。悪用されれば取り返しのつかんことになる。ええか、 三郎!」
「私は一恵ですよ、おじいちゃん」
「悪用される前に蝕の生態を記した【裏ファーブル昆虫記】全64ページを集めるんぢゃ!」
「もう! すっかりボケちゃってんだから……」
和装の女性は呆れて呟く。
それはいつものやり取りであった。
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