第1章「ムシの良過ぎる男」

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 上司の辛辣な言葉にも、部下――佐野三郎は愛想笑いを浮かべるのみであった。しかし、それも生来の顔の造形のせいで嫌悪感を抱かせるのだから始末に負えない。    彼は笑うと目は厭らしくふくらみ、口元は意味ありげに持ち上がる。それは愛想を窺うというよりは含みのある表情だった。  まあ、クソムシなぞと罵られて怒らない方がおかしい。言われて喜ぶのはそれこそクソムシ本人だけであろう。 「ケケケ」  奇妙な笑い声が三郎の肩から発せらた。よく見ると、白いYシャツの上に2センチほどの生き物が引っ付いていた。
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