6.ツンツンリーマンの恋人。

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  * 「こちらが再来月発売になる商品のサンプルになります。まだパンフレットはご用意できていませんが、何かあればご質問ください」 「ほぉ。クラシカルでなかなかいいね」 「ありがとうございます」 テトラ産業の田仲さんが訪れたのは15時を5分ほど過ぎた頃だった。 会議室に通して挨拶とお詫びをしてお茶を出し、今は新製品のサンプルを見てもらっているところだ。 担当の喜多村さんが時間に遅れることを伝えたけど田仲さんは怒った様子はなく、むしろ笑顔で「大丈夫ですよ」と言ってくれた。 いくつか用意しておいた時計を興味深く見てくれているようで、このまま無事に時間が過ぎてくれればいいと願うだけ。 あと、15分。 「これ、着けてみても?」 「あ、どうぞ!ぜひ」 田仲さんが手に取ったのは、ローマ数字の書かれたクラシカルな時計盤を持つ、濃いブラウンの革のベルトが特徴的な腕時計だ。 その革は固すぎず、でもよれよれにもならないもので、使えば使うほど味が出てくるような適度に高級感を与えるもの。 ちょうど50代と思われる田仲さんにぴったりのものだと思う。 田仲さんは時計を手に取ったものの、どうも着けられないでいるようだ。 「どうかされました?」 「あぁ、悪いが着けてもらえないかな?右手を痛めていて、どうもうまく着けられないらしい」 「そうなんですね。わかりました」 「ありがとう」 「失礼します」と断り、私は田仲さんのスーツの袖を少し上げ、腕時計を着け始める。 腕時計を手に持った感覚も適度な重さがあって、革のしっとり感も手に馴染む。 素敵な時計だなぁ、たくさんの人に愛用してもらいたいなぁ、なんて思っていた時だった。  
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