6.ツンツンリーマンの恋人。

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  その時だった。 こんこんっ、と部屋の扉を叩く音がして、扉が開いたのは。 「っ!!」 ビクッと扉の方に顔を向けると、そこにいたのは部長だった。 部長……! 「遅くなり……申し訳ありません」 「あ、あぁ。とんでもない。あぁ、時計、ありがとう」 「い、いえ……っ」 部長の目線がこっちを向いた瞬間、田仲さんの手がぱっと私から離れた。 私の手を包み込んでいた熱がなくなり、私はほっとした。 あからさまに手を引くのは失礼と思い、いつの間にか震え出していた手をゆっくりと引く。 良かった……。 やっと離れられた。 「あぁ、弊社の新製品を着けてくださっているんですね」 「えぇ。着け心地もいいし、とてもいい時計だと話していたんですよ。お客様にもきっと気に入っていただける」 「……そう仰っていただけて幸いです。ありがとうございます」 今のを部長に見られていたのだろうか、と思ったけど、田仲さんと会話をする部長には全くそんな素振りはなく、見られていなかったんだと思った。 もし見られていたとしても、きっと部長は何も言わない。 それなら、変に思われるのは嫌だし、見られていなくて良かった。 「高橋」 「は、はい!」 「あとは私が応対するから、戻っていなさい」 「……はい」 部長の口調はいつもと違って外部向けだし、表情はいつもと同じで笑顔もないけど、部長がそばにいるというだけで安心感に包まれた。 震える手をぎゅっと握り締め、私は「失礼します」とお辞儀をして会議室を後にした。  
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