3.ツンツンリーマンの信頼。

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  「あっ、井上くんだったんだ~。驚いちゃったー!って、あれ?お尻、痛い……?」 知った顔にあははっと笑いかけたのと同時に、お尻にジンジンと鈍い痛みがあることに気付いた私は腰の辺りを手で押さえる。 「えっ?いや、反応遅すぎるでしょ~!あはは!……っじゃなくて!すみません!大丈夫ですか!?」 「ん~……、痛いけど~、うん。何とか大丈夫そうだよ!ごめんね、私、前見てなかったみたいで」 「いやいや、自分が走ってたのが悪いんです!すみません!ちょっと急いでたんで……」 頭をぺこぺこ下げながら早口で話す井上くんの焦っている態度に、私はその意味にはっと気付いた。 「えっ、急いでるって、もしかして取引先との約束!?」 「あっ、はい。実は……」 「それなら、早く行って!私なら大丈夫だし、時間に遅れると良くないから!」 時計メーカーの営業という立場から、遅刻は厳禁だ。 これは週に一度ある営業部ミーティングでも、耳にたこができるくらいうるさく、部長が言っていることだ。 それに営業の日報には営業先への到着時間などを細かく書く決まりになっていて、遅刻なんてした日には部長から大きな雷が落ちることは目に見えている。 「でも、本当に大丈夫ですか?」 「大丈夫だって!私、頑丈だから!お客さん待たせるの良くないから、早く行って!でも、安全運転でね!」 「は、はい!本当にすみませんでした!じゃあ失礼します!」 おろおろとした表情を浮かべながらも井上くんはぺこっと頭を下げてバタバタと走っていった。 私はその姿が見えなくなるまで笑顔で見送っていたけど、見えなくなった瞬間、顔をしかめて腰に手を当ててさすった。 「うーん、意外と痛い……。っていうか、時計が無事で良かった……はぁ」 ぎゅうとダンボールを抱き締めた後、私は痛みを我慢しながらそろそろと立ち上がり、ダンボールをしっかりと抱えなおしてゆっくりとオフィスに向かって歩き始めた。  
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