3.ツンツンリーマンの信頼。

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  * 私が新製品のサンプル品を抱えてオフィスに戻ってから30分後、部長がビジネスカバンとパンフレットが詰められた自社紙バッグを持って、オフィスに戻ってきた。 部長はそのままデスクに座り、パソコンに向かい始めた。 部長が営業先からオフィスに戻ってくると、タバコを吸いに行くか、そのまま仕事を始めるかのどちらかなんだけど、今日は仕事を選んだらしい。 もしかしたら、そろそろ落ち着いてきているはずの“例の件”に関してのメールのチェックをしているのかもしれない。 きっと、今は何よりも優先事項のはずだから。 “例の件”というのは、製品の仕様が販売店から聞いていた話と違うという理由から、その製品が返品されることになっている件だ。 うちの会社の問題というよりもうちの製品を委託している販売店の問題だったんだけど、販売店からその販売先への説明不足があったことは回りまわってうちの信用問題に関わってくる。 その件があってから部長はツンツンさに磨きが掛かっている上、営業の人たちが部長のところに訪れる時には必ず部長は「説明は的確に、かつ、精確に!」と言うようになっていて、そろそろ私の耳にもたこができそうだなと思っていたりする。 この件での唯一の救いは未納入のうちに返品になったこともありうちの会社にとっては大きな損害にならないらしいことだけど、これから先、同じことが起こらないようにするために、営業の人間はしっかり気を引き締めろと、いつもよりもぴりぴりとした雰囲気が営業部内では漂っていた。 会社の顔になる営業全体をまとめないといけない部長って立場もなかなか大変だよなぁ、と私はこっそりと部長に目を向ける。 私はこの前のG事件の時に部長の笑顔を見損ねたこともあって、それまでも頻繁だったけど、さらに部長に目線を向けることが多くなっていた。 いつかふと笑ってくれるんじゃないかと期待して。 でも2年半ここにいて見たことのない笑顔が簡単に出るはずもなく、これまで通り、部長の笑顔を見ることは一度もなかった。 何しろ、返品の件があったこともあって、笑顔どころでもないのが実状なのだ。  
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