3.ツンツンリーマンの信頼。

10/21
前へ
/224ページ
次へ
  「あ、あのっ、部長」 「あ?」 「ダンボールは落としてはないんですけど……さっきこけてしまって、胸に抱えて守ったつもりだったんですけど、もしかしたらその時に……っ」 「は?」 「す、すみません……!私のせいです……!すみません!!」 私はガバッと深く頭を下げる。 最悪だ。大事な新製品のサンプルを壊してしまうなんて。 ドクンドクンと嫌な音をたてる心臓が苦しくて、目頭が熱くなっていく。 でも、泣いても壊れたものが元に戻るわけじゃない、と私はぐっと涙が零れそうになるのをこらえる。 どうしよう。 どうしたらいいんだろう。 「高橋」 「はっ、はいっ!」 「本当に落としてねぇんだな?」 「は、はい……。でも、こけた時の衝撃が伝わって壊れたのかもしれません、ので」 「……わかった。もういい」 「え、でも、部長」 「もういいっつってんだ。お前は自分の仕事に戻れ」 「!……はい」 見放されたと思った。 その証拠に部長は怒りもせず、ただ呆れた様子で私から目線をそらしてしまったから。 胸元を込み上げてくる苦しいものが私を襲ったけど、私はそれ以上、何も言うことも考えることもできなかった。  
/224ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1207人が本棚に入れています
本棚に追加