3.ツンツンリーマンの信頼。

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  大事な商品サンプルを壊すなんていうミスをしてしまった後に、頭を使う仕事なんかできるわけない。 そんな甘過ぎる考えから、私は営業の人からの問い合わせの回答を終わらせてからは、急ぎの仕事がなかったこともあって棚の片付け作業を行っていた。 そんなのは甘えてる、と言われてしまえば何の言い訳もできないけど、ミスをするよりはマシだからと自分に言い聞かせた。 古い商品のパンフレットなど、明らかにそこに置いておくべき資料ばかりだと思われるところを中心にチェックしていく。 これも残す、これも残す……と、棚の右側から左側に必要な資料を、探す時に見つけやすいように付箋をつけながら移動させる。 頭の中には商品を壊してしまったことがぐるぐると回っていて手は動いていても集中できるはずもなく、ノロノロと作業をしていると、視界の端っこに部長が立ち上がる姿が映った。 その手にはさっき私が渡したダンボールがおさまっていて、ドクン!と心臓が大きな音をたてる。 慌てて私は部長に駆け寄る。 「あの……っ!部長っ!」 「あ?何だ。騒々しい」 「それっ、企画部に持っていくんですよねっ?私が行って謝ってきます!私の責任ですから!」 「いい。お前は自分の仕事をしていろ」 「!でも!私のせいで……っ!」 「うるせぇ!うだうだ言ってねぇで、早く自分の仕事に戻れっつってんだ!」 「っ!!」 飛んできた部長の怒鳴り声とその迫力に、私はそれ以上何も言葉を出すことはできなかった。 冷たい表情を私に向けていた部長が私からふいっと顔をそらしてオフィスから出ていく後姿を、私はぼんやりと見ていた。 ……定時直前にオフィスを出て行った部長は、定時を過ぎて20時を回っても、オフィスに戻ってこなかった。  
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