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__キーンコーンカーンコーン…
最終下校を知らせる17時のチャイムが鳴った。校庭で練習していたサッカー部と野球部の声は今はもう聞こえてこない。窓から射し込む光が、カーテンを少しオレンジ色に染めている。
チャイムが鳴り終わると先生は乗っていた机の上からギシッという音をたてながら降りた。
「今日はここまで。藍堕くんは速やかに帰るようにしなさい」
そう言って先生は窓際に置いてあるもう一つの椅子に掛けていた自分の白衣を手にしてから教育相談室の鍵を回し、ドアノブに手をかけた。
「あ、それと…」
先生はふと言い忘れていたかのように口を開いた。
「この事は他の先生、生徒、勿論親にも内密に」
自分の口に人指し指を当てて優しく微笑みながら俺にそう告げた。ドアノブを回して戸を開くと先生は、
「さようなら、椿くん。シャツ直してから帰りなよ」
と、言葉を残して教育相談室を去って行った。誰が脱がしたと思ってんだ…そういや、先生が俺のことを名前で呼んだのは今が初めてだな。俺は開かれた教育相談室の戸に解放感を覚えた。早めにここを出ようと、開けられたシャツのボタンを留めると学生鞄を片手に部屋を出た___いや、出ようとした。
「椿くん」
「ぅおわ!?先生!何だよ!」
部屋の戸の隙間から顔を覗かせたのはさっきここを去っていった一宮先生だった。
「いやぁ、椿くんの写真机の上に忘れたなぁって思って…」
先生はそう言って教育相談室の机を指さす。そこには確かに俺の写真があった。
「…あっそ、早くとれば。先生さよなら」
俺は入り口を塞いでいた先生の体を押し退けながら部屋を出た。時刻は最終下校の時間をとっくに過ぎていた。
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