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「ただいまー」
帰宅した俺はそう言いながら玄関で靴を脱ぐ。いつもなら靴を脱いでいる時にお母さんから「おかえり」という言葉がかえってくる筈だ。なのに今日はその言葉どころか家の中から物音一つもたっていない。
「留守…なのか?ちひろー」
ちひろとは、小学6年生の妹の名前だ。俺は妹の名前を呼び続けながら2階へと上がる。妹の部屋の戸を2回ノックしてから開ける…が、そこに妹の姿はなかった。
「…ったく、皆どこ行ってんだよ」
「親はラブホ、妹さんは友達の家にお泊まりに行ってるよ」
ふと俺の後ろから声が聞こえた。
「あぁ、母さんと父さんはラブホね………って、何であんたがいんの!?」
後ろからさりげなく家族の情報を教えてくれたのは一宮先生だった。先生は片手に紙袋を持ちながら俺と一緒に妹の部屋を覗いていた。
「椿くん不用心だなぁ。玄関の鍵あいてたよ」
「不法侵入!!」
先生は声をあげる俺を気にもとめずにケラケラ笑いながら階段を下りていく。
「まぁ怒らないで。ゆっくりしてってよ」
「ここ俺ん家…」
そんな会話をしながらも俺は先生と一緒にリビングへと向かう。
「つか何で先生俺ん家の家庭事情知ってんのさ」
一緒に階段を下りながら俺は先生に問う。
「んー…まぁ、先生が椿くんの家族皆を家から追い出したようなもんだよ」
「その言い方もうちょい変えてくれない?」
リビングにつき俺はソファに腰を下ろす。先生は片手に持っていた紙袋をテーブルに置き、テレビのリモコンを手に取ると俺の隣に腰をかけた。
「今日って月曜だよね?何があるかな…」
先生はテレビをつけて鼻歌を歌いながらチャンネルを変える。
「………先生、もっかい言うよ?ここ俺ん家」
先生の行動に呆れながれも俺は、先生と俺の2人分のお茶を淹れていた。
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