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「起立、気を付け…礼」
「さようなら」と、皆の声が重なる…いや、ほとんどバラバラだったため重なったというより飛び交ったと言った方が正確だ。まとまりのない挨拶をし終えるとクラスの皆は走って教室を出ていった。終礼が終わったのだ。つまり今は放課後。一宮先生は廊下で女子に囲まれていた。教室に残っているのは俺と凛だけになった。
「椿くぅん!帰りましょぉ!!」
静かになった教室に響いたのは凛の気色の悪い声だった。
「普通に喋ろ…つか抱きつくな!」
俺は今にも抱きついてきそうな凛を自分の鞄で振り払った。その鞄は見事凛の脇腹にクリティカルヒットした。
「ぐは…ちょ、椿痛い…」
鞄がヒットした部分を抑え前屈みになりながら俺に痛みを訴えてくる凛。それを無視して俺は鞄を持ち直す。
「よし…帰るぞ、凛」
俺がそう言うのと同時に廊下から俺を呼ぶ声がした。
「藍堕くん。教育相談室」
「……………あ」
声の主は一宮先生。放課後教育相談室という約束を、俺はすっかり忘れていた。先生は「鍵取ってくるから待ってて」と言って俺の前から去った。
「お前、一宮先生と何かあったのか?」
俺の後ろから凛が問い質してきた。
「いや、ちょっと気になる事があって…」
「そっか…じゃあ俺、話が終わるまで教室で待っとくわ」
凛はそう言って鞄を椅子の上に置き自分の机の上に座った。が、俺は凛が待っててくれる事を断った。
「いや、話長くなりそうだから先帰ってて。何か待たせたら悪いし」
「そうか…じゃまた明日!じゃあな」
「おぅ!じゃあな」
凛が教室を出ていってしばらくすると、一宮先生が戻ってきた。教育相談室の鍵と俺の写った写真を一枚手にして。
「あれ、愛川くん帰ったんだ…じゃ、行こっか。教育相談室」
一宮先生は無表情で俺を見つめながらそう言った。
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