1人が本棚に入れています
本棚に追加
「痛ってなーおい!」
老人相手だと油断していたのか、護衛から食らった拳のダメージはそこまでひどくはない。
ただ老人相手に拳を振るうだなんて、こいつらは腐っている。
「老人相手になにしてんだよ!あ?」
「なんなんだお前は!」
「お前らこそなんなんだよ!」
レースはこれ以上にないほど頭に血が上っていた。自分の育ての親が、奴隷という身分から救ってくれた恩人をここまでコケにするとは。
だからこそ気付くのが遅れた。護衛の数名がこちらへ向けててを伸ばしていることに。
「やれ!」
突然の命令だったが、護衛は予め予想していたのか淀みなくその拳をレースに振るった。
「くそったれ!」
が、異常な反応速度でレースはそれを避ける。さすがにそれは予想外だったのか、護衛を含めた国の連中は呆気にとられている。
その隙をレースは逃さなかった。まず拳を振るってきた護衛に右の拳を振るうと続けて脇に控えていた別の護衛へと接近する。
だがやはり護衛。すでに混乱から立ち直っており、レースの接近に余裕をもって対応している。
縮まる両者の距離。先に動いたのはレース。接近する勢いそのまま左足を軸に護衛の顎へと向け蹴りを放つ。護衛は対して顎を軽く引くだけで対処。
下がった勢いのまま跳躍しそのまま懐へと入ってきたレースに向けて蹴りを放つ。だがそれをまたしても避けるレース。
護衛の今の蹴りは必中のはずだった。蹴りで体制を崩したところへタイミングをずらした後方へ下がりながらの蹴り。
それをああも容易く--
そしてそこでレースの右拳が顔面へと迫っていることに気づく。迫っていることを確認したが避けることはできない。
跳躍したため空中で身動きの取れない護衛は咄嗟に両腕で顔をかばう。
だが衝撃が来たのは腹。先程のあれはフェイントだったのだ。
ここまで戦闘に秀でているとは予想もしなかった。その護衛の意識はそこで沈んだ。
一瞬で二人の護衛の意識を奪ったものの残る護衛はまだ多く、先程のように油断している者は一人もいない。
今完全に劣勢に立たされているレース。
その均衡を破ったのは国側の、先程までは何の存在も感じさせなかった一人の女だった。
最初のコメントを投稿しよう!