1話『奴隷区』

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「面倒くさいからどいてくれる?」 レースの前に歩み出た女はレースの2つ3つほど年上であろう女。いやまだ成人に満たないであろうことを考えると少女と呼ぶべきか。 肩まで伸びた水色の髪を揺らしながらその少女はまた1歩その歩を進める。 先程まではこんな少女がいるなんて気づかなかった。 目鼻立ちのくっきりとした整った容姿に映える髪。ローブに覆われて体全体のラインは隠れてしまっているが、ローブの上からでもスタイルのよさがうかがえる。 こんな存在感を放っている奴を見逃していたことにレースは動揺した。 その間にも少女はまた1歩また1歩とその歩みを止めようとはしない。 その距離があと数歩進めばレースに手が届くというところで彼女は足を止めた。 「本当に退いてくれない?これ以上は時間の無駄」 その言い方に、こちらの事情を一切聞こうとしないその態度にレースはキレた。 「俺たちの村はこの井戸から水を得ているんだ!お前ら王都に住む奴らはわからないと思うけどな、こっちはその日その日の水を確保するのもやっとなんだよ!」 「それで?」 レースの言葉を軽く一蹴し、彼女は二の句を告いだ。 「この井戸がなくたって河へ足を運べば済むことじゃない?距離はあるかもしれないけど水に困るなんてことはないと思うけど?」 「何だと?」 その言葉にレースの怒りはさらに募る。 「川からここの村まで歩いてたらな、その日その日が精一杯な俺たちが仕事まで失うはめになるだろうが!それに川だって毎日毎日水を運んでくる訳じゃないんだよ!あそこまでいって水が枯れてるなんてことになったらさらに苦しくなるだろうが!」 「水が枯れる?バカなこと言わないで。この国は水の都と呼ばれるほど水資源が豊富なのよ?そんなことあるわけないじゃない」 レースのことを嘲笑いながら話す少女に不思議と怒りが静まるのをレースは感じていた。 豊かな生活に甘んじているあまりこちらの生活レベルを自分達と同じレベルで考える。そんな奴と話していたって時間の無駄だとレースは思った。 「そっかそっか。そっちの言い分はわかったがこの井戸は譲れない」 断固としてこの井戸を守ろうと決意したレースに対して少女がとった行動は意外にも実力行使という形で現れた。 「そう。ならこっちにも考えがあるわ」
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