第二章:蘇りは命日

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「ホッカイドーからオキナワまで、あちこち行ったよ」 答える声は低く穏やかだが、日本の北海道や沖縄ではなく、それぞれ独立した別の国に思える。 「サッポロでね、雪が膝まで積もったんだよ」 ビロード張りのソファに腰掛けた黒いズボンの膝を、手を横にして軽く叩く。 すぐそれと特定できるブランド物ではないが、しなやかな生地からして質の良い服を着ていると知れた。 白のセーターも型はシンプルだけど、素材は安価ではなさそうだ。 何をしているのか知らないけど、日本に長らくいてあちこちを訪れていることからして、お金持ちではあるんだろう。 「雪って降ってすぐは柔らかいんだね」 そんなにも嬉しげに話すところを見ると、この人もレスリーと同じ香港でなければ、中国でも雪の降らない南方の出身なのかもしれない。 もう桜の咲く季節なのに、雪みたいに真っ白な毛糸のハイネックを着込んでいるのは、東京の四月がこの人にとってはまだ寒いからだろう。
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