第二章:蘇りは命日

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「ナイチにいてもそれは同じ」 ナイチは「内地」、すなわち中国本土のことだ。 中国語をかじった私にも分かる。 一九九七年までイギリス領だった香港と「内地」こと中国本土の間には、未だに色濃く一線が引かれている。 レスリーが亡くなったのは、本土回帰から六年目に入り、内地で発生したSARSが香港にも広がってパニックになっていたちょうどその時だった。 「ナイチのおまわりさん、コワイ」 「コワイ」の「ワ」に力を込めて言うと、相手はまたカラカラと笑い転げる。 日本人のような妙な照れを含まない笑い方を見ると、やはり異国で育った人だと分かる。 「そうでしょうね」 私も釣られて笑いが漏れる。 屈託なく笑っているだけに、偽りのない彼の本音なのだという気がした。 やっぱりこの人も、元は香港人なのかもしれない。
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