第二章:蘇りは命日

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「どうしました?」 ごく穏やかな問い掛けだった。 だが、相手は、半ばこちらの答えを知っている風に、微笑んでいる。 「いえ、あの……」 上擦った声を絞り出しながら、私は余計にうろたえた。 「レスリー・チャン……さんにそっくりだと思いまして」 別人なら「さん」を付ける必要はないはずだ。 言い終えてから思い当たる。 だが、一方で、何故か敬称を付けないとこの人に失礼な気がした。 相手は柔らかに微笑んだ顔をゆっくりと縦に頷かせる。 そして、こちらにやっと届くくらいの声で告げた。 「だって、僕だもの」 耳の中で、周囲の物音が一度に止まった。 少し離れたところで、金茶色の髪に濃紺のスーツを纏った、大柄な白人男性が、ガラス張りの回転ドアを通り抜けて夜の街に出て行く。 ここ、日本なんだよね? 一瞬、そんな迷いが頭を掠める。 回転ドアが動いた煽りで、微かに冷えた空気がこちらに流れてきた。 温かなコーヒーの香りはまだこちらの頬を撫ぜてくる。
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