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「どうしました?」
ごく穏やかな問い掛けだった。
だが、相手は、半ばこちらの答えを知っている風に、微笑んでいる。
「いえ、あの……」
上擦った声を絞り出しながら、私は余計にうろたえた。
「レスリー・チャン……さんにそっくりだと思いまして」
別人なら「さん」を付ける必要はないはずだ。
言い終えてから思い当たる。
だが、一方で、何故か敬称を付けないとこの人に失礼な気がした。
相手は柔らかに微笑んだ顔をゆっくりと縦に頷かせる。
そして、こちらにやっと届くくらいの声で告げた。
「だって、僕だもの」
耳の中で、周囲の物音が一度に止まった。
少し離れたところで、金茶色の髪に濃紺のスーツを纏った、大柄な白人男性が、ガラス張りの回転ドアを通り抜けて夜の街に出て行く。
ここ、日本なんだよね?
一瞬、そんな迷いが頭を掠める。
回転ドアが動いた煽りで、微かに冷えた空気がこちらに流れてきた。
温かなコーヒーの香りはまだこちらの頬を撫ぜてくる。
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