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「嘘だって思ったでしょ」
沈黙を破った相手はカラカラ笑って言い添えた。
「いいじゃない、今日はエイプリルフールなんだから」
そして、レスリーの命日だ。
雑誌で見た、葬儀の写真が頭の中で蘇る。
まるで結婚式さながら白い百合の花に埋もれた彼の遺影は、何となく蝋人形じみた無表情な顔つきで、しかも顔の左半分は影に浸されていた。
今、私の目の前にいる相手は、二重を通り越して三重瞼になった左目まで、ロビーの柔らかな灯りの中で明らかにして微笑んでいる。
「今日だけは、シニンが蘇っても許されるよ」
言葉の中からそこだけ飛び出た「シニン」が、頭の中で一瞬の間を置いて「死人」に変換された。
この人はどうやら日本人でないらしい。
目の前の彼は、相変わらず目尻に皺を刻ませていたずらっぽく笑っている。
「そうですね」
目の前の笑顔に釣り込まれて、自分でもぎこちなく感じる笑いを作りながら、私は繰り返し頷いた。
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