玉川上水の金色の・・・

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ある日、大きな音がして、それは巨大なダムから一斉放流が始まったかのようなすさまじい音で、そのせいで、玉川上水の崖のすみっこで眠っていた小さな妖精が目を覚ましてしまいました。不意をつかれた妖精の体から、透明の卵がぷよぷよと浮かび出て辺り一面に漂いました。「あら、ちびっちゃったみたい」妖精は大きくあくびをすると、特にやることもないので、そのまま卵を大量に生み始めました。透き通ったトパーズ色の体のてっぺんについているキラキラした触覚の先についた水玉模様のビー玉みたいなところから、シャワーのように小さな可愛い卵がポコポコと弾け飛びました。 ちょうどその時間、上水沿いを遊び場にしていた一匹のトラ猫が、ぷらぷらとお散歩をしておりました。ふと見ると、空中に何かキラキラ光るものがたくさん浮かんでいます。最初のうち、猫は気持ち悪がって遠目に見ていましたが、そのぷよぷよ光るものが目の前にまで漂ってくると、なんだか無性にお腹が空いて、小さな舌をペロッと出してそっと舌先にそのぷよぷよをのせてみました。ごっくん。おや?こりゃうまいぞ。トラ猫は、ぷよぷよが溜まっている方へ駈けていって、届く範囲のぷよぷよを片っ端から平らげました。右手でキャッチ。左手でもキャッチ。ジャンプして直接ぱっくり。「うまいうまい、こんなに柔らかくて触感の良い、爽やかな土の酸味とまろやかな水の甘みを兼ね備えた食べ物を食べるのは初めてだにゃあ、うまいうまい、やめられない」 猫は興奮して人目もはばからず、とはいっても実際その道を人が通ることはほぼないのでしたが、夢見心地で食べ続けました。そうするうちに、なにやら不思議なことに、普通は食べれば食べるほど満足感を得て同時に体が重たくなっていくのに、このぷよぷよと言えばまったく真逆の効果をトラ猫にもたらしました。いやいや、実際、猫の体はどんどん軽くなって、小さなあんよはもう浮かび上がる寸前まで来ていたのです。あんよが1センチは浮いてしまった頃に、猫はハッと我に帰りました。大変だ体が浮いちゃってるよ。困ったにゃあ。猫は恐ろしくなって家に帰ることにしました。ふわふわ浮いたからだでの移動になれていないので、いつもより2倍も時間がかかってしまいましたが、無事におうちに辿り着きました。
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