婚約

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 黄昏時(たそがれどき)、オレンジ色の光が差し込む喫茶・綾織(あやおり)では閉店準備をしていた。  まだ営業時間ではあるものの、本日最後と思われるお客さんも先ほど帰ったのでテーブルの拭き掃除を始めている。  キッチンの片付けをしているマスターの和田(わだ) 詩織(しおり)に代わって、娘の波留(はる)がテーブル拭きを手伝っていた。  波留はもうすぐ十一歳になる小学五年生。  小さい頃は身長が足りなくてやる気が空回りしたテーブル拭きも、今ではサッサとスムーズに拭ける。  最近は良く手伝うようになった事もあって、テーブル拭きはお手のもの。  拭き残しも指摘されなくなってきた。  あとはモップで床掃除をするだけとなったが、まだ一応営業時間。  残り五分ではあるけれど、お客さんが来た時のためにモップを持っているわけにはいかない。
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