2

8/54
前へ
/356ページ
次へ
一度だけ聞いたことがあった。 『今、どこにいるの?』と。 答えは『あんたに関係ない』だった。 それからしばらく経ったある日、街で母を見た。 スーツを着こなし、颯爽と歩いていく姿。 また別の日。 知らない男と腕を組んで歩いていく姿。 試験期間中が終わると、ガランとした部屋に置かれた札束。 これで勝手に生活しろと言ってるように。 最早、自分の存在は邪魔でしかないと理解した。 「…ナツ。あんた、そんなこと抱えてたの?」 「抱えてた?…いや、私の人生がそんなものだったってことだけだよ。」 「あのね。あんたはまだ子供なの。私だってそう。親が必要なんだよ?」 「…いなくても…死にはしないよ。」 いつからか、火を見たら逃げ出す癖がついた。 お母さんを見たら震える癖がついた。 それさえこの世になければ、幸せなのに。 そう思ってきた。 それから… 「お父さんを見捨てた消防士…それも嫌い。」 「…見捨てたって…まさか…」
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2886人が本棚に入れています
本棚に追加