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その日、夕方まで訓練や他の様子を見たあとに帰っていった彼女。
帰り際「また来てもいいですか?」と笑顔で言ってきた。
その笑顔は恋をしてるからか。
だが、苦しみを乗り越えて前へ進もうと頑張っている彼女に胸を打たれた。
細い糸に掴まっているくせに、それだけでもがいている自分が恥ずかしいとさえ思った。
掴んでいるのなら、這い上がれ。
いつまでも過去に縛られるな。
前を向いて生きろ。
頭では分かっているのに、実行できない自分がもどかしく、それでいて恥ずかしい。
その夜はなかなか寝付けず、彼女の笑顔と昔の泣き顔が交互に頭を過った。
本当にいろいろ考えて、今の彼女に何かしてやりたいという気持ちも大きくなった。
翌日、出勤してきた冬馬に声を掛けて、副隊長室へ招き入れた。
「…冬馬。お前さ、好きな女いる?」
「へ?」
朝っぱらからする話でもないし、いきなりこんな話題はないだろう。
案の定、拍子抜けしたように俺を見た。
「だからさ、好きな女。」
「…プライベート詮索するんですか?」
「ちょっと訳ありでな。」
「ノーコメントです。」
「肯定するってことだな?」
「だから、ノーコメントです。」
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