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「雅~、そんなに怒ってると可愛い顔が台無しでちゅよ~。」
「怒らせたのは誰よ!」
毛を逆撫でて敵を威嚇する猫みたいな私を、「まぁまぁ落ち着いて」と、諭す愛野。
そんな彼女が突然
遠くの空にUFOでも発見したかの様に、私の後方を指差して「あっ」と声を出した。
「そんな嘘に騙されないんだから。」
ケンカになるといつもこうやって注意を反らして、いつのまにか逃亡をはかる。
愛野の常套手段だ。
「嘘じゃないよ。ホラ、雅。後ろ後ろ」
「また、どうせ何も無いんでしょ…」
執拗に指を揺らす彼女を疑いながらも、私はゆっくりと振り返った。
すると、数メートル離れた体育館のステージ。
そこに彼はいた。
「わ…王子だ…」
ステージ上には慣れた手付きでマイクをセッティングする一人の男の子。
松本拓巳(まつもと たくみ)くん。
教員、生徒から絶大な信頼を得る
この学校の生徒会長。
影での通称“王子”である。
「いや~、今日も爽やかだね~」
後ろから聞こえる愛野の声。
“爽やか”
その言葉が彼以上に似合う人間が存在するだろうか。
ステージ上がスポットライトに照らされているんじゃないかと錯覚する程、彼の回りだけキラキラ輝いて見える。
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