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急激に縮まる彼との距離。動揺に目を細めた私。警戒心たっぷりに彼を睨み付けた瞬間、しっかり、ハッキリ。互いの視線は重なった。
「っ……」
奇抜な髪色にばかり目を取られていたが……、よくみれば綺麗な顔をした男の子。線の深い二重瞼、モデルみたいに小さなフェイスライン。
キラキラと太陽光に反射して輝く金色の髪も、癪だけれど似合ってる。身長だって160㎝の私よりも優に高くて、年頃だというのに色白な肌にはニキビひとつない。
嘘でしょって。
女の私が、恵まれ過ぎてるその容姿に嫉妬を覚えた瞬間──しかも、相手は男。
悔しくて、なんだか急に恥ずかしくて……。
今朝出来たばかりの額のニキビを前髪を撫で付け隠してみる。対抗した所で勝てる気しないけど。
「あはっ……今井さん。見過ぎでしょ」
彼の苦笑いにハッと意識が現実に引き戻される。私は今……、何を考えていたの?
「どっ……退いてよ!ホームルーム始まっちゃうじっ……!?」
動揺を悟られたくなかった私が、逃げる様に彼の横をすり抜けたその時だった。
「…今井さんが好き。大好き。めちゃくちゃ愛してる。絶対大切にするから……お願い。俺の彼女になって?」
ヘラリっとにやけた彼の口から発っせられたのは、フワリフワリと宙を舞う綿ボコリなんかよりずーっと軽い愛の言葉。
……チャラ過ぎ。
「……ごめんなさい。私、そういうの興味ないんだ」
数秒の間を持たせた後私は丁重に頭を下げた。本当は即答でも良かった。イライラしてたし?でも、考えた振りをするのが礼儀だと思った。一応ね。
あのさ。俺って猪突猛進タイプっつうか…とにっかく一途だから。自慢じゃないけどさ」
「へ…?ちょ、ちょと…つ、?え?」
「なにが言いたいかというと、俺には今井さんしかありえないって事。そこらへんよろしく」
理解に苦しみ固まる私に、彼はだめ押しと言わんばかりに「ねっ」と、渾身のスマイルを向けた。
「っ………」
……会話のキャッチボールはいずこ。
ビュンっと強く、屋上に吹いた春風が、私の髪を四方八方へと揺らす。その風は心無しか……私の心を映し出している気がしたんだ。
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