五、キスだけでも貴方は良いですか?

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片手で本当に良かったって思う。 今まで聞いたことのない様な甘い声に、背中が甘く痺れた。 こんな、こんな声をこの人は出せるんだ。 でも。 「サンタをどうしても奪いたいからって私ごと浚う意味が分かりません! どうせ、家に到着したら私の鼻の先でドアを閉める気ですよね」 「そんな物理的な意味で浚うと言っているわけではない」 「問答無用です! 駄目なものは駄目です」 「本当に免疫のない小娘は面倒だな」 盛大に舌打ちした美国部長に、カーテンを無理矢理引っ張られた。 背中に窓の冷たい感触が広がり、部屋の角に追い詰められ逃げられない中、部長の顔は無表情だった。 「今なら――まだ俺でも良いと思うのだけど」 「何をですか?」 「こうも思わないか。この天使が俺とお前を巡り合わせたと」 美国部長の手が、サンタに伸びる。 サンタの背中を優しく撫でたと思ったら、今度は私の髪を撫でた。 その触り方に、私まで部長に優しく扱われる猫になった気分だった。 「私、部長には本当に感謝しています。昨日、美国部長にソファに押し倒されて、胸がドキドキして気付いたんです」
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