一、くつした履いた猫?

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「今日は……休みます」 向こうから何か言われる前にそう言って、電話を切ろうとすると、電話の向こうの狼くんが間髪入れずに話し出す。 「じゃあ、壁をよじ登って先輩の部屋に侵入しますから」 ひー。止めて。止めてよ。 「毎日毎日、もうごねられるのには慣れましたから。鍵を開けないなら、そうします。では」 「開けます! 今開けます!」 瓶底眼鏡に、二つに結んだ髪の毛、そして黒猫が散りばめられたパジャマ姿のダサい恰好の私を見て、――狼くんはワンコが尻尾を振るみたいに笑う。 「おはようございます。先輩」 「おはよう」 「さ、行きますよ。電車に乗ればまだ間に合いますから」 そう促されて、行きたくない気持ちをどうにか奮い起して洗面所へと向かう。 最初は、駅で待っててくれていたのに、行きたくないと起きられなくなる私のせいで狼くんは気づけばズルズルと家の前まで迎えに来てくれるようになった。 「今日は、コンペの結果があるし、クライアントとの打ち合わせもあるでしょ?」
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