一、くつした履いた猫?

5/44
前へ
/240ページ
次へ
駅から降りるとすぐに見える大型ショッピングモール。 その15階から上は様々なオフイスが入っていて、私と狼君が所属している『aspiration- The global boutique design studio』は、15,16,17階にある。 建築デザインから、ブランドロゴ、映画やブランドのパンフレット、様々な分野のデザインを手がける大手の会社で――どれぐらい人が働いているのか未だに私は分かっていない。 警備員が立っているロビーが苦手だった。 綺麗な受付の女の人が会釈してくれるのも、息が詰まった。 値踏みされているような空間が、私になんて居場所がないように思えた。 エレベータを待ちながらも、帰って猫グッズに溢れた部屋でゴロゴロしたい衝動に駆られる。 「私のデザインなんてマニア向けなんだから、フリーで働きたいな。辞めたい」 「それ、耳にタコ。今の仕事を全て放棄する先輩なんて先輩じゃありません」 「狼くんが思う先輩像って」 言いかけた瞬間、エレベータが開いて乗り込もうとした私は目を丸くした。 今にもキスしそうに顔を近づけた男の人と女の人が、開いたドアからこんにちはしていたから。
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

964人が本棚に入れています
本棚に追加