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「もう。笙(しょう)さんが焦らすからっ。酷い」
「続きは、キミの部屋で、ですね」
見つめ合う美男美女に見覚えがあったけれど、こんな遅刻ギリギリでイチャイチャするような人たちとは、ちょっとお近づきになりたくなかった。
「おはようございます」
狼君が当たり障りない挨拶をしたので、軽く会釈してすぐに壁の方を向く。
向こうの二人からも適当な挨拶が聞こえた気がしたけど、16階のボタンを見つめて誤魔化した。
「で、キミ、猫飼ってるんだって?」
「ええ。可愛いのよ。もう結構歳だけど」
「――じゃあ、猫でも見に行こうかな」
「本当に猫が目的?」
私と狼くんが見えていないかのような二人の世界に言葉が出てこない。
遅刻ギリギリの時間だから誰も乗って来ないのが悔やまれる。
「その首筋の爪痕ってどうしたの?」
「これ? なかなか懐かない美人にキスしようとしただけで引っ掻かれた。キミみたいに素直になれば、あの子も可愛いのにな」
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