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「ヒト」は、「考える植物図鑑」に載っている生き物だ。
「人間は考える葦である」と人間のパスカルが主張したことをそっくり拝借すると、
ヒトというのは考える樫だったり、考えるニラだったり、もやしだったり、ねぎだったりするのかもしれない――。
弁当の野菜炒めを箸でつまみながら、人の心を読む「覚り妖怪」のダイゴはそうぼんやりと考えていた。
大きな手でやたらと小さなコンビニの割箸を操り、つまんだ一本のもやしを大きな口へ運んだ。
壁に掛った時計の針が5時半を指す。
「白神相談事事務所」とすりガラスに書かれたドアがいささか乱暴に開くと、快活そうな少女が姿を現す。
「きたぁく!」
「おかえり」
ダイゴはばりばりと野菜をかみ砕きながらのんびりと言った。
紺色のブレザーを腰に巻き、赤のスカートという高校の制服姿の少女は鞄を部屋の隅に放り投げた。
「おなか減ったあー。自分ばっか食べててずるいわよ。私の分のお弁当はどこ?
もう、図体ばっかり大きくて頭の回らない……」
少女のよく舌が回る演説を遮って、彼は彼女の分の肉野菜炒め弁当を差し出した。
「さっすがダイゴ、気が利くう。よくやったぞ」
一秒で手のひらを返した彼女は白神百花(しらかみ・ひゃっか)。
髪が振り回しながら踊るように覚り妖怪から弁当を奪取すると、中古の赤いソファに尻餅をつくように座った。
前髪で目の隠れた彼、ダイゴはもくもくと弁当を進めている。
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