第1章

4/8
前へ
/11ページ
次へ
その夜だった。 「たす…けて…」 耳元で女の声がした。いつものことだ。私は生まれつき霊感があるらしく、姿は見えないものの、時折、こうして幽霊と思われる人々の声が聞こえるのだ。 こんな夜は、ただ、目をつぶって寝付けないまま、一夜を過ごすだけであった。 女の声は一晩中続き、次の日の朝は寝不足だった。 まぁ、会社はクビになったので関係はないけど。 私は、体を起こすと、洗濯物をすることにした。今は何かしていないと、落ち着かない。 私は昨日着ていたコートへと手を伸ばした。ポケットに手を入れ、何か入っていないか探る。 うっかりボールペンなんか入れていたら、大惨事になりかねない。 内ポケットを探り終え、表のポケットを探り始めると、私の右手がクシャっと音を立て何かを捉えた。 不思議に思いながら、取り出してみる。 「ああ、これか…」 それは昨日路上で拾った、胡散臭い広告だった。 どこで、こんな商売をしているのだろうか、面白半分で裏面の地図を見る。 それは、街中の入り組んだ小さな路地にあるようだ。 面白いのはそれだけではなった。 ‘‘アーケード街より右折。路地を歩いて10分、塀の上を歩いて8分。” どうやら、塀の上を歩いた方が近いようだ。 いったいどんな場所にあるお店なのか気になってしまった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加