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その夜だった。
「たす…けて…」
耳元で女の声がした。いつものことだ。私は生まれつき霊感があるらしく、姿は見えないものの、時折、こうして幽霊と思われる人々の声が聞こえるのだ。
こんな夜は、ただ、目をつぶって寝付けないまま、一夜を過ごすだけであった。
女の声は一晩中続き、次の日の朝は寝不足だった。
まぁ、会社はクビになったので関係はないけど。
私は、体を起こすと、洗濯物をすることにした。今は何かしていないと、落ち着かない。
私は昨日着ていたコートへと手を伸ばした。ポケットに手を入れ、何か入っていないか探る。
うっかりボールペンなんか入れていたら、大惨事になりかねない。
内ポケットを探り終え、表のポケットを探り始めると、私の右手がクシャっと音を立て何かを捉えた。
不思議に思いながら、取り出してみる。
「ああ、これか…」
それは昨日路上で拾った、胡散臭い広告だった。
どこで、こんな商売をしているのだろうか、面白半分で裏面の地図を見る。
それは、街中の入り組んだ小さな路地にあるようだ。
面白いのはそれだけではなった。
‘‘アーケード街より右折。路地を歩いて10分、塀の上を歩いて8分。”
どうやら、塀の上を歩いた方が近いようだ。
いったいどんな場所にあるお店なのか気になってしまった。
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