第1章

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「今日は、どのような商品をお求めですか?」 小さな作業台の向こうから、独特な声がする。 ちょっと冷やかしてやろうと思った私にとっては、正直、苦しい質問だった。 「えっと…この広告を見て。」 「にゃるほど。ひげが合わず、見えてしまったのですね! 猫の世界ではよくある悩みです。 ところで、今はどんなひげをつけているのですか?」 「ひ…ひげですか? 付けてないです。」 「にゃに!!付けてない!?それは大変!」 店主の驚いた声が響き、作業台から黄色い目がこちらを覗き込んだ。 「に…人間だ!?」 こちらを覗き込んだ店主は驚いたように、椅子から床へと飛び降りた。 「ね…猫?!」 もちろん、私の頭も混乱していた。目の前の猫がしゃべっていたのだ。 「ど、どうやってここまできたんだ? 普通の人間には、入れないはずにゃのに…」 「えっ?この広告の通りに…」 私は、目の前の黒猫にポケットティッシュサイズの広告を見せた。 「さては、人間のお嬢さん… ''あれ''が見えるんだね?」 黒猫の不思議な問いに私は、何も答えられず、ただ、何を聞かれているのかを考えていた。
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