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男は、家の裏庭の縁側に座り、お茶を飲みながら花壇を眺めていた。
「僕は幸せ者だよ。こうやって君の美しい姿をずっと眺めて過ごす事が出来るなんて」
お茶を一口すすり、満足げなため息を吐く。
「花の命は短いなんて言う人もいるけれど、花は枯れても種を残し、種は落ちても大地に芽吹き、蕾は開いてまた笑顔を見せてくれる。花は無限の命を持っているんだ。花が大地の表情だとするならば、僕は、君の笑顔を永遠に守り続けるよ」
湯呑みをことりと茶托に置く。
「ああ、でも君は寂しがり屋だから、1人では寂しいかなあ?もちろん僕は君がいれば幸せだよ。君も僕がいれば寂しくないよね?でももし誰かがここへ来たら、それは君の意志だと思って、その人も招待するしかないね」
土田優人は、道行く人を片っ端から呼び止め、写真を見せて尋ねて歩いていた。
「この娘の事、知りませんか?ずっと捜しているんです」
呼び止められた年配の女性は、写真と土田の顔をマジマジと見比べる。
まあ、こんな図体の大きい男にいきなり声を掛けられたら、警戒するのも無理はないよな。
そう土田は思った。
彼は180cm以上の長身で、細く見えるが筋肉質、登山でもするかの様な大きなバッグを背負っており、町には似合わないそのちぐはぐさが、奇妙な違和感を醸し出していた。
「誰?恋人さん?」
「はい。名前は光井花と言います。いつも笑顔で、でも寂しがり屋で、きっと今も寂しさにじっと耐えていると思うんです」
「まあ、そうなの」
年配の女性は片手を自分の頬に押し当て、同情の様子を見せた。
「うーん。そうねえ…なんとなく…八百屋さんの隣の二階の窓に、時々顔を出す娘がいて、その娘に似ているかしら?」
「何処ですか?その八百屋さんって」
場所を教えて貰い、感謝の言葉を告げて駆け出す。
5分とかからずその八百屋に着き、隣の家の二階を凝視して待つ。
1時間、2時間、その娘は顔を見せない。
もしその娘が花だったら、世間の常識になどかまっていられない。
強行突破しかない。
背負っていた大きなバックを降ろし、ほんの少ししかない中身を確認して、また背負い直す。
3時間、4時間、夕方になって、とうとうその娘が窓から顔を出した。
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