第1章

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男は、家の裏庭の縁側に座り、お茶を飲みながら花壇を眺めていた。 「僕は幸せ者だよ。こうやって君の美しい姿をずっと眺めて過ごす事が出来るなんて」 お茶を一口すすり、満足げなため息を吐く。 「花の命は短いなんて言う人もいるけれど、花は枯れても種を残し、種は落ちても大地に芽吹き、蕾は開いてまた笑顔を見せてくれる。花は無限の命を持っているんだ。花が大地の表情だとするならば、僕は、君の笑顔を永遠に守り続けるよ」 湯呑みをことりと茶托に置く。 「ああ、でも君は寂しがり屋だから、1人では寂しいかなあ?もちろん僕は君がいれば幸せだよ。君も僕がいれば寂しくないよね?でももし誰かがここへ来たら、それは君の意志だと思って、その人も招待するしかないね」 土田優人は、道行く人を片っ端から呼び止め、写真を見せて尋ねて歩いていた。 「この娘の事、知りませんか?ずっと捜しているんです」 呼び止められた年配の女性は、写真と土田の顔をマジマジと見比べる。 まあ、こんな図体の大きい男にいきなり声を掛けられたら、警戒するのも無理はないよな。 そう土田は思った。 彼は180cm以上の長身で、細く見えるが筋肉質、登山でもするかの様な大きなバッグを背負っており、町には似合わないそのちぐはぐさが、奇妙な違和感を醸し出していた。 「誰?恋人さん?」 「はい。名前は光井花と言います。いつも笑顔で、でも寂しがり屋で、きっと今も寂しさにじっと耐えていると思うんです」 「まあ、そうなの」 年配の女性は片手を自分の頬に押し当て、同情の様子を見せた。 「うーん。そうねえ…なんとなく…八百屋さんの隣の二階の窓に、時々顔を出す娘がいて、その娘に似ているかしら?」 「何処ですか?その八百屋さんって」 場所を教えて貰い、感謝の言葉を告げて駆け出す。 5分とかからずその八百屋に着き、隣の家の二階を凝視して待つ。 1時間、2時間、その娘は顔を見せない。 もしその娘が花だったら、世間の常識になどかまっていられない。 強行突破しかない。 背負っていた大きなバックを降ろし、ほんの少ししかない中身を確認して、また背負い直す。 3時間、4時間、夕方になって、とうとうその娘が窓から顔を出した。
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