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「ああ、見たよ。ほら、あのアパートの…えーと、あそこだから104かな。美人だから、つい目で追っちゃうよね」
何十人に尋ねたろうか、ついに目撃者が現れた。
何度もお礼を言い、そのアパートの裏手へ回る。
塀があるが、土田の頭が出るほどの高さだ。
中を覗くと、各部屋に、金網で区切られた裏庭があり、縁側と小さな花壇が設置されていた。
その風景に少し懐かしさを覚えた。
もうずいぶん長い間、家に帰っていない。
早く花と一緒に家に帰りたいよ。
「104と言うと、ここだな」
塀を乗り越え、花壇の花を踏まない様に気を付けながら裏庭に降り立つ。
もし花ではなく別人だったら、警察を呼ばれても仕方がない行為だ。
でもあれだけはっきり見たと言ったんだ。
今度こそ間違いない。
縁側のガラス戸を調べてみると、鍵がかかっていた。
「クレセント錠か、これなら」
バッグを降ろし、中からテープとドライバーを取り出すと、クレセント錠を囲む様にガラスにテープを貼り付ける。
そしてドライバーでその中を叩くと、ガラスが小さな音を立て、穴が空いた。
そこから手を差し入れ開錠し、中へ侵入する。
リビングのようだ。
誰もいない。
リビングのテーブルにバッグを置き、部屋を見回す。
キッチンの方を見ると冷蔵庫のドアが開いていて、その向こうに人がいるのが見えた。
女性だ。
花か?それとも…
息をするのも忘れ、じっと凝視する。
ゆっくりと冷蔵庫のドアが閉まり、その姿が現れた。
花だ!花、花、花!
「花ッ!」
突然の土田の叫びに、花はハッと振り返る。
「花、やっと見つけた。さあ、早くこんな所から抜け出して、一緒に家に帰ろう」
土田の姿に、花は目をまんまると見開いて口をぱくぱくさせていたが、ようやく声を絞り出した。
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