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彼女は、
深夜営業を生業とする飲食店の新しい従業員だった。
先日辞めてしまった給仕の代わりである。
地上ではなく地下に人工の月を擁する店舗のオーナーは、
色に関して性質が悪いと専らの噂であった。
彼に手を出される所為で、
従業員の勤務が長続きしないというのが、
常連客の間では常識となっている。
尤も、
辞めたばかりの給仕とは、
僕も一度だけやったことがあったので、
噂の真偽は定かではない。
一方、
料理人の腕は確かであり、
扱う酒の種類も豊富。
大学に程近い場所柄だからなのか、
集う人種の年代は若い。
僕も件の大学に在籍しているから、
その部類である。
但し、
群れるのは好みではない。
大抵、
カウンターの端っこで一人、
時間潰しをしていた。
始めに気になったのは彼女の声であった。
何のグループかは知らないが、
数人の男に囲まれた舐められ易そうな男が、
入口付近で殴られていた。
僕はその様子を漫然と眺めていた。
よく見る光景だったからだ。
「お客様、他の方のご迷惑になりますの
でご遠慮願います」
「会計を済ませて頂いて、店外でならご
自由にどうぞ」
慇懃無礼とはこのことだろう。
鼻白む男たちが出て行った後。
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